肺炎・認知症予防、嚥下訓練効果のある『専門性の高い口腔ケア』
こんにちは。
口腔内と健康と全身との関連については近年多くの研究があり、口腔ケアは口腔内を清潔に保ち、虫歯や感染を予防するだけでなく、口腔機能を向上させ、肺炎や認知症を予防することができます。
今回は『専門性の高い口腔ケア』ということで、嚥下の専門職である言語聴覚士の視点から訓練効果を伴い、肺炎予防・認知症予防にも繋がる口腔ケアについてまとめていきたいと思います。
口腔ケアの基本的な手順を確認しつつ、プラスαで、一歩踏み込んだ方法について説明していきます。
【目次】
口腔ケアの基本的な手順
口腔ケアの基本的な手順は以下です。
専門性の高い口腔ケア
今回紹介する口腔ケアは基本的な流れは上記と同じですが、プラスαとして一歩踏み込んだ手順を上記に沿って1つずつ説明していきます。
プラスαの部分は青字で説明しています。
1.準備
歯ブラシ、うがい用のコップ、入れ歯を置く容器を準備します。
≪ここでプラスα≫
コップ一杯の冷水を用意します(氷を入れて冷やす、冷蔵庫で事前にペットボトルで冷やしておくなど、水が冷たければ何でも構いません)。
冷水を使用することで口腔内の感覚機能を向上させることができます。
この後のブラッシングで使用します(※うがいでは使用しません)。
2.うがい
磨き始める前にうがいをして口の中に残りかすを取り除きます。
左右の頬を膨らませてしっかりとブクブクとします。
≪ここでプラスα≫
うがいの前に咳払いを5回します。
食後はのどに食物が残りやすく、健康な人でもよくありますが、痰が絡んでいることが多いです。これが肺炎に繋がるので、ここでしっかりと除去しておきます。
また、咳払いを行うことで嚥下に重要な呼気力も鍛えることができます。
3.入れ歯の清掃
ここで入れ歯を外します。下から外すと上も外しやすいです。
入れ歯を磨く時は流水を当てながら、歯ブラシで磨きましょう。
熱湯を使うと入れ歯が変形するので注意。歯の付け根やバネの部分は汚れが残りやすいので念入りに!
4.粘膜の清掃
スポンジブラシを使います。
うがいで落としきれなかった粘膜に付着している痰や汚れを絡め取ります。
≪スポンジブラシの手順≫
①水で濡らし、しっかりと水気を切る
②頬の内側を清掃する→左右ともに、歯肉と頬の間にブラシを軽く押し当てて、上から下へ、下から上へ動かす。
③唇の内側を清掃する→唇と歯肉の間にブラシを入れて左右に動かし清掃する。
④上あご、口の奥を清掃する→上あごの奥にブラシを軽く押し当て、痰や汚れを巻きつけるように、奥から手前に向かってブラシを動かす。
※ブラシが汚れてきたらその都度水ですすいで、水気を切る。
≪ここでプラスα≫
スポンジブラシのすすぎには用意した冷水を使用します。
冷水ですすぎ、スポンジブラシが常に冷えた状態で口腔内を清掃します。
汚れてきたらその都度すすぐ。
冷たいブラシで口腔内に感覚刺激を与えることで、口腔内の知覚機能が向上し、脳への良い刺激になります(口腔内の知覚領域は脳の感覚野の広い範囲を占めている)。
5.歯の清掃
歯ブラシを使い歯に付着している食べかすや歯垢を取り除きます。
磨く順番は特に決まりはないですが、あちこちバラバラに磨くと磨き残しの心配があるので、順番は決めた方が良いです。
≪磨く順番の一例≫
このように一筆書きの要領で磨くと磨き残しの心配はありません。
(相変わらず絵が下手ですみません^^;)
磨く時は力の入れすぎに注意!
力を入れてゴシゴシ磨くとよく磨けるような気がしますが、動きが大きくなり歯と歯の間の磨き残しが増え、歯や歯肉を傷つけてしまいます。
歯磨きのコツは「優しく、小刻みに」です。
汚れを落とすのに力は要りません。歯に対しブラシをまっすぐに当て、優しく、小刻みに動かします。
歯ブラシが汚れてきたら、その都度すすいで、しっかりと水分を切る。
≪ここでプラスα≫
スポンジブラシ同様、ここでも歯ブラシのすすぎには冷水を使用します。
ブラシに汚れが付いていなくても、細かく冷水ですすぐことでブラシの冷たさをキープする(上の絵の数字が変わるタイミングですすぐと良いです)。
6.舌の清掃
歯を磨いたあとは、舌の汚れを落とします。
舌の清掃が不十分だと、舌の表面に舌苔という白い汚れが目立つようになり、味覚障害や口臭の原因になります。
舌ブラシがあれば汚れを落としやすいですが、普通の歯ブラシでも十分綺麗に磨けます。
磨き方は、ブラシで舌を奥から手前に優しくこすり取ります。
やりすぎは舌を傷つけるのであくまで優しく!
この時あまり奥までブラシをつっこむと「オエッ」と嘔吐反射を誘発してしまうので注意。
≪ここでプラスα≫
舌の清掃でも今まで同様に冷水を使用します。
舌まで磨き終わったら、①舌のトレーニングと②頬のストレッチを行います。
①舌のトレーニング
歯ブラシの背面で舌を上から軽く押します。それに対し舌は歯ブラシを持ち上げるように上に力を入れて抵抗します。これを5秒×3回行う。
歯ブラシと舌とで押し合いっこをすることで、舌の筋力を鍛えることができます。
②頬のストレッチ
歯ブラシの背を用いて頬の内側を外へ押し広げるようにストレッチを行います。
左右の頬を内側から上下に3回程度動かします。
ストレッチすることで、食事で使った筋肉の強張りをほぐし、筋肉を柔軟にします。
さらに冷水を使用しているので、感覚刺激の入力にもなります。
7.うがい
粘膜→歯→舌と磨き終わったら、うがいをして口の中を綺麗に流します。
8.入れ歯の装着
最後に綺麗にした入れ歯を装着して終了。
以上が流れになります。
簡単にまとめると以下。
この口腔ケアのメリット
この口腔ケアのメリットとしては以下の3点です。
メリット①|口腔内の運動機能や知覚機能、呼気力の向上
舌や頬の運動機能や口腔内の知覚機能、呼気力を向上させることができます。
知覚機能は食事に凄く大事な機能です。
味覚や温度を感じるだけでなく、口の中のどこにどんな食感のものが入っているか、何を噛んでいるか、噛み残しはないか、などといった口の中のあらゆる情報を無意識に脳が把握し、うまい具合に舌や頬を動かして、咀しゃくして飲み込んでいます。
知覚機能が低下すると、口に含んでいる量が把握できず、一口量が多くなってしまったり、咀しゃくが不十分なまま飲み込んでしまったり、飲み込んだ後食べカスが舌の上や頬の隙間のあちこちに残っていたり、といった誤嚥リスクに繋がる危険があります。
メリット②|肺炎予防につながる
食後の一般的な口腔ケアだけでも肺炎予防につながりますが、咳払いでのどを綺麗にすることでより肺炎を予防することができます。
さらに口腔内の運動機能や知覚機能を鍛えることができるので、長期的な視点でも肺炎を予防することができます。
メリット③|認知症予防につながる
頬のストレッチや舌のトレーニング、冷水での冷たい刺激などでこれでもかってほど口腔内に感覚刺激を入力し、さらにこれらの運動で脳血流量を増加させることにより、脳機能を賦活化させることができ、認知症を予防することができます。
また、今まで慣れ親しんだ手順ではなく、新しいことを考えながら実施する必要があるので、頭を使うこと自体が認知症予防につながります。
まとめ
今回紹介した内容は僕が実際に臨床現場で使用しており、訪問した家庭で指導させていただいている内容も含んでいます。
イラストを交えて手順をまとめたものを洗面台に貼っておけば、毎回確認しながら実施することができます(僕が作成するイラストはお渡しする度に苦笑いをいただくので今回のせていません^^;)。
デイサービスや施設でも毎食後に実施していただくと効果的です!
最初は職員と一緒に手順を確認しながら、慣れてきたら1人で実施していただく、もしくは利用者同士でお互い確認し合いながら行うとコミュニケーション機会にもなっていいですね!
毎日なにげなく当たり前に行っている口腔ケア。
毎日行うからこそ、軽んじず、正しい手順で、質の高いケアを行うことで、いつまでも食事を美味しく、安全に続けることができます。
質問や相談があればインスタグラムの方でメッセージお願いします^^